今日は、〇△カテゴリーの記事です。
「いきなり!ステーキ」を運営するペッパーフードサービスの経営状況が急速に悪化していることを皆さんご存知ですか?
投資をしている方々であれば、約2年前までは、非常に持てはやされ、上がる一方だったペッパーフードの株価(8000円を超えていた)が、その後ずっと下げ続けている(昨年末で1259円)ので、ある程度知っているとは思いますが、株をやらない方にとっては、最近ニュースで
「いきなり!ステーキが大量閉店へ」
というものが出て、急に話題になったことぐらいしか知らないですよね?
「いきなり!ステーキは、一時期大きな話題だったし、お店も沢山あるし、最近まで各方面で沢山取り上げられていたから、それなりに順調なのでしょ?」という感想をお持ちの方が大半だと思います。
ところがその経営状況は、実はかなりヤバい状況に陥っています。
肉マイレージ騒動(倒産すれば、肉マイレージカードに貯めているポイントが失効する可能性があるので、早く使い切る)も発生しているという最近の週刊誌の記事(ちょっと煽り過ぎの記事だと思います)もありますからね。
今回はそこで、運営会社のペッパーフードサービスの財務状況等を投資家目線で分析してみようと思います。
昨年末(2019年12月27日)に、ペッパーフードサービスは2件の情報開示をしました。
それは、
2019年8月~9月にかけて、6つの金融機関から合計41億円の新規の借金をしていた事実を開示
2020年1月15日付で、SMBC日興証券に対し新株予約権を発行し、最大で69.3億円を調達する(この大半は借金返済と宣伝費に充当)と発表
というものです。
この情報開示を言い換えれば、本業で利益が出なくなっている(実は店舗を増やしすぎて損益分岐ラインぎりぎりとなっている)ので、当面の運転資金として、借金や新株予約権の発行で、総額数十億円級の調達をしなければならないところにまで、財務状況が急速に悪化しているということになります。
この発表のうち、金融機関からの借り入れは、それほど大きな問題ではありません。
今回発表の「大規模な新株予約権の発行」の内容が、資金繰りの苦境を示しているのです。
株式を上場するということは、必要に応じて株式市場から資金を調達することが出来るということです。
ですから、銀行からの借金以外の方法で新規資金を調達するために、新たに株式を発行するという手法は、多くの企業が実施していることなのですが、この際に通常は「公募増資」という方法を取ります。
公募増資とは、株式市場にアクセスしている全ての投資家に対して、「新しい株式を数パーセントのディスカウントで発行しますから買いませんか?」という公募を実施し、増資して資金を調達するということです。
この時には、増資分(新規発行株)の発行価格も市場原理に基づいて最終決定し、新規発行株を受け取る権利を取った各投資家が、権利行使の株数に応じた資金を振り込むことで手続きは完結となり、投資家は新株を受け取り、発行元の企業は資金を受け取るというわけです。
(公募増資以外には、第三者割当増資という特定の出資者に新株を割り当てて資金を調達する方法もある)
ところが、ペッパーフードサービスが今回実施した新株予約権に基づく、新株発行(発行済み株数の24%超という大規模)というのは、引き受け元(今回で言えばSMBC日興証券)だけが、上手くいけばかなりの利益を取ることができる(その代わり引き受けリスク(株価低迷が続けば損が出る)も高い)ものなのです。
新株予約権とは、その時の株価に応じて、転換価格が変動する(今回の場合、証券会社が権利を行使する前日の株価の92%)ように作られており、株価がさらに下がれば、転換価格も下がるので、ペッパーフードサービスが調達できる資金も大きく減ってしまうというものです。
この新株予約権の権利行使日については、契約に基づいて、証券会社の独断で決定できるので、株価を見ながら、かなりの安値で大量に行使することも可能です。
このようなやり方を選択してまでも、資金を調達せざるを得なかったということは、公募増資ではペッパーフード側が欲しい規模の資金が集まらない可能性が高いから、仕方なく調達金額が大きく減ってしまう可能性もある大量の新株予約権を発行せざるを得なかったという苦しい台所事情の裏返しとなります。
ペッパーフードの開示資料を見ると、この部分については
「公募増資や第三者割当増資も考えましたが、株価への影響が大きいので、既存株主の為にも新株予約権にしました」
という尤もらしい言い訳をしています。
でも、その本音は、
「24%超の新規発行を伴う公募増資だと調達前に株価が急落しちゃうし、第三者割当増資を引き受けてくれる企業も無かったのです。でも資金繰りが苦しいので、新株予約権を発行します」
と言っているわけです。
そういうわけで、資金ショートの実態が露わになった「いきなりステーキ」。
苦境の際の新株予約権での資金調達というのは、ゾンビ企業がよく行う方法でもあります。
「そこまで落ちぶれていたのか」というのが、今回の発表に対する旅人の感想です。
そこで、今まで開示されている情報から、ペッパーフードサービスの財務状況を見てみましょう。
2019年9月30日現在で、自己資本は12.5億円(うち利益剰余金はー13.4億円)
この数字を見て、「えっ、12.5億しか純資産が無いの?」というのが投資家が本業の旅人の感想です。
この利益剰余金の「ー(マイナス)」は、業績不振で今まで貯めていた利益の積み重ねをすべて吐き出してしまい、逆に欠損金を生じてしまったということです。
この部分がマイナスになると、配当を払うことは出来ません。
でも、6月の中間配当15円を支払っている(実際の支払いは8月末頃)ので、利益剰余金がマイナスになることを公表しなければならなくなる直前まで、苦しい懐事情を隠していたということになります。(隠していたとは言え、今回の場合、違法配当では無い)
因みに自己資本がマイナスになれば、債務超過となり、倒産予備軍の仲間入りです。
売上高は2018年12月期で635億円。
これは、外食業界の肉専業業態の企業として、かなりの大規模です。
店舗展開数は、昨年9月末現在、
元々やっていたペッパーランチ系列が505店
いきなりステーキが484店
新規事業系が14店
ということで、合計1003店舗というもので、これもかなりの大規模です。
このうち、44店舗のいきなりステーキを閉店することが発表されたので、話題になりました。
(ここまで財務が痛んでいると、44店舗閉鎖という「44」の部分の決定は、純資産(自己資本)との兼ね合いで、店舗閉鎖特損を計上しても債務超過に陥らないギリギリの金額内から逆算した数字だと思われます。)
635億円の売り上げがある企業の自己資本が12.5億円しかないということは、非常にギリギリです。
比較の参考例としてあげると、同業のブロンコビリー(売上げ230億円規模)だと、自己資本が176億円もあります。
業績がイマイチの「あさくま」でも、年間売上げ100億に対し、自己資本は40億円。
ですから、売上げ600億円級規模の企業の自己資本が、たった12.5億しかないというのは、かなり少ないということです。
そして、売り上げが大きいと、業績が傾いた場合、損失額も大きくなります。
いま、「いきなりステーキ」の各店舗の売り上げ減少は著しく(前年の5~7割程度の売上げしかない)、元々の原価率が高い上に、余剰資金も無く、その上、人件費等のコストが上がり続けているのですから、苦境の三重苦に陥っていて、今回の資金調達で実施する立て直しが失敗した場合、12.5億円しかない過少な自己資本は、半年もしないうちに消失してしまう可能性も十分あるわけです。
実は、ペッパーフードサービスは、「いきなりステーキ」を展開する前に、大不祥事で債務超過に陥り、決算書に「継続の疑義」(決算書を承認した監査法人から、「この企業は継続できない(倒産する)可能性があります、気を付けてくださいね」というありがたくないお墨付き)が付いてしまい、倒産間近だったことがあります。
この原因は、2007年に世間を大騒ぎさせた、「大阪・心斎橋店で起きた、店長らによる前代未聞のトンデモナイ凶悪事件」(詳細はウィキペディア等ネットに出ています)と、その後、食中毒事件迄発生してしまい、信用がゼロになって客足が大きく遠のき、存続の危機に陥ったのです。
その苦境下で始めた「いきなりステーキ」が大当たりして、企業として復活し、社長の一瀬氏もマスメディアで大きく取り上げられるようになったわけです。
信用力がゼロとなり、債務超過に陥った企業が、わずか数年で復活したきっかけは、一瀬氏のアイデア力。
この点は非常に素晴らしいですね。
ただ、現在のように再び苦境に陥ったのも、一瀬氏に原因があると思います。
一瀬氏は、アイデアマンですが、ワンマン経営者です。
いきなりステーキが大当たりしたことで、調子に乗り過ぎて、市場規模を考えず、同業他社を全部飲み込んでやろうと、店舗展開を一気に広げ過ぎてしまったことが、今回、ついこの間まで順調だったのが、たった2年という短い期間で、あっという間に経営が傾いてしまった原因なのですが、調子に乗り過ぎていた社長の経営方針にストップをかけることができる良質の補佐役が居なかったことも、経営不振の遠因であると思います。
ワンマンである一瀬社長の周囲には、イエスマンしか居なかった(残っていなかった)ということですね。
一瀬氏は、なかなかのアイデアマンですが、経営者としては残念ながら一流とは言えないでしょう。
大失敗も経験しながら復活し、成功しかけていたものを、この短期間で、ここまで傾けてしまうというのも、なかなかできる芸当ではありません(苦笑)
よく特集で、一瀬氏密着の様子等をテレビで見ましたが、そのワンマンぶりに「いきなりステーキ、調子に乗り過ぎで、ちょっとヤバいんじゃない?」という感想を以前から持っていましたけれども...ここまで傾いていたとは。
特に、調子に乗り過ぎている事実を如実に示していたのが「ステーキの本場アメリカで店舗展開する、必ず成功できる」と、一瀬社長が大風呂敷をぶち上げた時ではないでしょうか?
結局、周囲の取り巻きは誰も止めず、有言実行でNYで一気に11店舗を展開し、株式もアメリカ(NASDAQ)に上場しましたが、これが大失敗。
NY市民からも「このお店は、なんでこんなに近くにまとまって店を出しているの?これじゃあ、客が分散してしまって、上手くいくわけないじゃない?」と食べに来ていたイチお客レベルで、味ではなく店舗展開の方針を酷評されていましたからね(苦笑)
そういうわけで、いきなりステーキは現在、資金繰りが苦しく、かなり苦境に陥っているのは間違いありません。
せっかく成功したのに、将来に備えた利益を積みあげる前に、一気に店舗展開を拡大したことで、逆に利益率が低下し、財務状態が盤石になる前に衰退が始まり、海外進出も大失敗して大きな損失を出し、そのまま経営が傾いてしまったという「イケイケ経営失敗の典型例」となっています。
そもそも、日本の外食産業は、人口減少と少子高齢化で、市場が徐々に縮小する中、限られたパイを奪い合う、厳しい環境下に有るわけです。
いきなりステーキが取ったシェアは、新規に開拓したものでは無く、別の企業や中小の店舗が持っていたシェアを奪い取っただけのものです。
当然、真似もされるし、シェアを奪われた他社・他店も反撃に出るわけですから、その地位は万全のものでは無かったのです。
まして、ステーキ市場は高価格帯で、外食産業の市場としては大きくないのですし、そうした状況をきちんと分析して理解することなく、ただやみくもに拡大戦略に走ってしまったペッパーフードサービスという企業が、下手すれば今後淘汰されるのは致し方のないことなのだと思います。
ただ今回、あまり良くない方法とは言え、資金調達をできる見込みが立ったことで、数年分の運転資金を確保しました。
その間に不採算店を全部閉鎖し、市場に合った店舗数(いきなりステーキの形態だと、200~250店舗位が最大利益を出せる適正水準だと個人的には思います)に縮小均衡しないと、おそらく、かつての経営危機時よりも会社の規模が数倍になっていることから、人件費や店舗等の基本的な維持経費も相対的に大きくなっているので、この部分が重石になり、立て直しに失敗すれば、再度の経営危機に陥るのは避けられないのではないでしょうか?
同業だと、愛知地盤の、財務盤石・超安定企業「ブロンコビリー」は138店舗、老舗の「あさくま」は88店舗の展開数ですから、国内の外食ステーキ市場は1企業で500店舗展開できるほどの市場規模が無いのです。
そういえば、いきなりステーキ、最近では「牛タン」→「牡蠣」と来て、「社長のお願い」というキャンペーンまでやっていますが、これは経営の迷走ぶりを示しているだけにすぎず、集客効果はほとんど出ていないようですからね。
上記は、あくまで個人的な意見で、いきなりステーキに食べにも行きますし、ペッパーフードの株を持っているわけでもないし、この会社の株で損得関係も無いので、あくまで中立的な立場から見た分析です。
ただ、年末の開示情報が気になったので、記事にしてみました。